2014年5月2日金曜日

『ザ・イースト』


The East (2013)
Director: Zal Batmanglij
Writers: Zal Batmanglij, Brit Marling
Cast: Brit Marling, Alexander Skarsgård, Ellen Page, Patricia Clarkson

 ブリット・マーリングが製作、脚本、主演という才女(しかも美人)である。監督はザル・バトマングリッジ、脚本は彼女との共同だ。この2人の映画は今作が初めてだった。製作者の中にはリドリー・スコットと2012年に亡くなったトニー・スコットの名前もある。

キャスト:
ブリット・マーリング(サラ)

 サラという名は偽名で、元FBIの女性。民間調査会社に雇われ、エコ・テロリスト集団「イースト」の潜入捜査を行う。ブリット・マーリングは現在31歳だけど、20代半ばくらいの新入社員といった印象で良かった。

アレキサンダー・スカルスガルド(ベンジー)

 アレキサンダー・スカルスガルドがベンジーと呼ばれる「イースト」のリーダー。この俳優も観るのは初めてだったが、下手すると主演女優より美しいんじゃないかと思わせる瞬間もあった。
 映画内、最初はボサボサの長髪に、伸びきった髭というキリストのような風貌で登場したが、薬品会社のパーティーに紛れ込むという作戦では、整髪し、髭も整え、スーツで決めた。サラも、あら意外と男前じゃない?って思ったはずだ。女子はギャップに弱いって聞いたことがある、アレだ。


エレン・ペイジ(イジー)

 みんな大好きエレン・ペイジ。『Juno』も良かったけど、『スーパー!』の凶女っぷりが最高だった。今作も最も過激なテロリスト役で、こんな役ばっかりだ。童顔(もう27歳!)なのに、声がやさぐれ感のある低音というのが特徴。
 今年、同性愛者であることをカミング・アウトしたが(なぜか残念)、映画内でもそう思えてしまった(つくづく残念)。






パトリシア・クラークソン(シャロン)

 民間調査会社の幹部(社長かな?)役で、映画内の女性上司は全部この人がやってるんじゃない? という程、よく出ているという印象だ。









民間調査会社(Private Intelligence Agency)
 この映画では、現在のアメリカのニュースが幾つも題材として扱われている。その一つがサラが雇われた民間調査会社で、CIAやFBIが扱わない企業間で不利益となるようなテロ行為などを捜査し、未然に防ぐとい目的だ。企業に雇われての調査なので、その企業に関係のないテロ行為は取り扱わないみたいだ。
 映画内でサラが、今まさにテロ行為が行われると、シャロンに携帯で報告するが、「その会社はクライアントじゃないので放っておけ」と言われるシーンが印象に残った。

 この映画のモデルとなる会社が実際に存在し、ストラトフォー社という。この会社は「影のCIA」とも呼ばれている。何でもかんでも民営化するのがアメリカで、他にも民間軍事会社のGKシエラ社というのも存在するが、日本では到底考えられない。

 2012年に起きた実際の事件で、ウィキリークスがストラトフォーと顧客間の500万通もの電子メールを公開した。この電子メールを盗み出したのが国際ハッカー集団の「アノニマス」。
アノニマスのトレードマークはこの仮面。『Vフォー・ヴェンデッタ』だ!

 このメール公開により、ストラトフォーがコカコーラや米化学大手のダウ・ケミカルとユニオンカーバイドなどの依頼を受け、グローバル化に逆らうお笑いテロリスト「イエス・メン」や動物愛護団体PETA(動物の倫理的待遇を求める人々)の動向を監視していたということが分かった。
THE YES MEN - この2人がジョークを武器に大手企業と戦う
ユニオンカーバイド社は1984年にインドの農薬工場から有毒ガスを漏出させ、1万人近くもの死亡者を出した。この会社を後に買収したのがダウ・ケミカル社で、イエス・メンのお笑いテロのターゲットがこの両社だったのだ。
 イエス・メンは2004年にダウ・ケミカルのスポークスマンだと偽り、BBCに出演。全面的に被害者の保証を行うことを約束するというデマを語った。当然その後もずっと目をつけられていたという訳だ。


BBCのインタビューを受け、デマを発表するイエス・メン


 コカコーラ社はバンクーバー・オリンピックのスポンサーで、PETAによる妨害を恐れていたという。PETAは世界で最大の動物愛護団体で、過激なテロ行動は起こさないが、そのキャンペーンは過激だ。
エルメスの革製品に対しての抗議
日本での反バーバリー・キャンペーン

女はなぐっても、動物にはしないさ - クリス・ブラウン(わはは!)

フリーガン(Freegan)
  ブリット・マーリングは居場所が分からない「イースト」を探す旅にでる。彼氏には、暫くドバイに出張に行ってくると嘘をついた。髪を金髪に脱色し、サラと名乗り、スーツからバックパッカー風のアウトドア・ウエアに着替え、パンプスを脱ぎ、シャロンにプレゼントされたビルケンシュトックのサンダルに履き替えた。

 まず列車の無銭乗車(トレイン・サーフィン)をする若者達のグループと行動を共にし、そこで出会ったルカという男を助けることになる。その男がダンプスターと呼ばれる巨大な業務用ゴミ箱から廃棄したピザやパンを取ってくる。彼女は仲間に加わるために、我慢してそれを口にする……。
 これも事実だ。このように捨てられた食べ物や日用品を再利用する人々を「フリーガン」と呼ばれている。フーリガンはサッカー場で嫌われているが、フリーガンはアメリカではトレンドなのだ。ダンプスターに入って、ゴミあさりをすることを「ダンプスター・ダイビング」とも言うらしい。



 サラはルカの持っていた方位磁石をふと手に取る……が、東を指したまま動かない! ルカは「イースト」のメンバーに間違いない!……って見つけるのが早過ぎ。

エコ・テロリスト(Eco-terrorist)
「イースト」のような、過激な犯罪行為を行なう集団をエコ・テロリストというのだが、日本人が真っ先に思い浮かぶのがシーシェパードじゃないかと思う。しかしシーシェパードは認可を受けたNPO団体であり、自称「人は傷つけない主義」で、厳密にはエコ・テロリストには当てはまらないかもしれない。もちろんPETAもイエス・メンもエコ・テロリストとは呼ばない。
これでも暴力ではないのか?
「イースト」のモデルに近い実際の集団が、アメリカの地球解放戦線(ELF,Earth Liberation Front)とか、イギリスで結成された動物解放戦線ALF,Animal Liberation Front)になるのではないか。

 地球解放戦線(ELF)は、森林破壊を行っていると疑われた企業や研究機関を爆破や放火という過激な犯罪行動を行う。しかし環境のためなら、爆破や放火も辞さないというのは間違いなく矛盾だろう。

 もう一つ代表的な犯罪として「ツリー・スパイキング」という行為がある。木の幹に鉄くぎを打ち込んで伐採を妨害するというものだ。こうしておくとチェーンソーの歯がだめになるが、人にも大変危険だ。チェーンソーを扱った人なら、ぞっとすると思う。

もしもぼくらが木を失なったら』(If a Tree Falls)
 アカデミー賞・ドキュメンタリー部門の候補にもなった作品。元ELFのメンバーで有罪判決を受けた男を追ったドキュメンタリー。
ドキュメンタリー映画『もしもぼくらが木を失なったら』(2011)
 動物解放戦線(ALF)は「動物の権利」確保を目的に、畜産場、毛皮専門店、大学、製薬会社などを襲撃し、時には爆破・放火などの過激な非合法活動も行っていた。
ALF - 俺たち動物愛好家!

ALF - エロテロリストなら歓迎!
「イースト」のウエルカム・ディナー
 「イースト」は奥深い森の中で集団生活をしている。そこへサラは潜入することに成功した。これはテロリストというより、カルト教団のイメージに近い。この監督&主演女優コンビの前作『サウンド・オブ.マイ・ボイス』は、カルト教団をテーマにしたスリラーだ。



 映画「ザ・イースト」の食卓のシーンで、サラを含めて「イースト」のメンバー全員が拘束着を着け、テーブルを囲む。もちろん両手の自由は利かない。リーダーのベンジーがゲストのサラに「まず君から食べよ」と言う。サラはスプーンの柄を口でくわえるがうまくいかず、皿に顔を突っ込み平らげる。それを見た後、他の者たちはスプーンをくわえ、皿をすくい、横の人の口元に差し出し、食べさせた……。
 これはカルト的な新入りを迎え入れる儀式として印象に残るシーンになった。このシーンの元となる話がある(おそらくなのだが…)。
天国と地獄のスプーン」という話だ。
 ある者が地獄を覗いてみた。そこではテーブルの上に豪華なご馳走が並べられ、何人かが椅子に座っている。だが左手は椅子に縛られ、右手の先は柄の極端に長いスプーンが縛り付けられていた。結局、地獄では人は何も食べることができず、ただ飢えていくばかりであった。
 次に天国を覗いてみると、そこでは地獄と全く同じ風景であった。テーブルの上にはご馳走、着席した人の左手は椅子に縛られ、右手は柄の長いスプーンが縛られている。だが違っていたのは、天国では互いにスプーンを差し出し、食べさせていたのだ……っていう話。

エンディングに関して
 サラはエンディングで、民間調査会社の自分と同じようなエージェントたちのデータが収まったmicroSDカードをリステリン・ポケットパック(多分これだと…)のケースに入れ、これを飲み込んで持ち出した。
これを君なら飲み込めるか?
この映画内で2度、サラは指を口に突っ込んで嘔吐し、これを取り出した。随分と都合のいい食道をお持ちでというのはまだいいとして、その後、エージェントたちとコンタクトを取り、何らかの行動を起こしたのだろう……、エピローグで、メディアに曝された幾つかの企業の不正が明らかになったとのことだ。

 このエピローグに蛇足感を感じたのだ。つまり彼女一人で活動できるなら、2時間かけて描いた「イースト」という集団は随分無能ではないか?
仮に他のエージェントたちを味方につけたとしても、パトリシア・クラークソンも黙っちゃいないだろう? 一体どんな行動を起こしたのだ? また2時間の続編として決着つけてもらいたい。